北千里動物病院

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更新日 2021-04-20 | 作成日 2021-04-20

犬アトピー性皮膚炎/猫アトピー性皮膚炎


原因

アトピーは遺伝的に様々なアレルゲンに対してアレルギー反応を出しやすい体質(アトピー素因)を持った動物で発症します。
アレルゲンによって動物体内でアレルゲン特異的IgEが産生され、これが肥満細胞と結合し、再度アレルゲンと接触した際に肥満細胞から炎症を惹起する物質が放出されて発症にいたるというのがメインの原因です。
これ以外に接触性アレルギー(4型アレルギー反応)なども関連していると思われます。
アレルギー、アトピーの発生メカニズムは細かいところでの差はあれど大まかにみて犬も猫も同様と考えて良いでしょう。

症状

犬での症状
顔面、脇の下、指間、脚、内股などが好発部位です。
皮膚が赤くなり、かゆみが強い状況が続くのが主症状です。
基本的に3才齢未満で発症します。
季節性をもつものもありますが、時間経過とともに一年中アトピーに悩まされる状況に移行することが多いようです。
慢性経過の中で皮膚はだんだん分厚くガサガサになってきます(苔癬化)。
多くは色素沈着を伴うので皮膚が黒っぽく変化します。
異常に皮膚が油っぽくなる例もあります(脂漏)。
皮膚のバリヤー機能が損なわれてくるので、易感染性となり、細菌性皮膚炎や
マラセチア性皮膚炎などを併発するケースもあります。

猫での症状
痒み、過度のグルーミング(舐め)、皮膚の赤み、湿疹等がみられますが
猫に関しては、犬ほど明確な皮疹や、痒みの症状を見せないものもあります。
そもそも、「毛繕い」をする動物ですので、痒みが原因で舐めている場合でもオーナー様に見落とされる傾向にあります。
明らかな脱毛を認めるレベルや、オーナー様からみて明らかに異常と認識できる皮膚状態に達して始めて来院されるケースが多いです。
猫自身が舐められる範囲での脱毛・裂毛(腹回り、内股、前肢等)や耳介及びその周辺、顔面、口唇周囲、後肢足根周囲や足底部、パッドなどのかゆみ、赤み、湿疹、脱毛が認められる事が多いです。
心因性の舐性皮膚炎(精神的な問題で異常にグルーミングをくり返し、脱毛・裂毛を起こす)と症状がかぶる部分も多いかと思います。
実際、心因性と思われた皮膚脱毛がアトピー治療で良化するケースがあります。
「猫の心因性の舐性脱毛」と診断されている例の6割強が実際にはアトピー素因が関与している可能性があり、獣医側で過度に「心因性」という判断がなされている現状があるようです。

好酸球という細胞が関与しての皮膚炎や、夏場では蚊の吸血によるアレルギー、保護したての猫で多い外部寄生虫性皮膚炎(ノミやダニ)、真菌性皮膚炎(カビ)、細菌感染性皮膚炎等も紛らわしい症状を呈する場合があります。
糖尿病に随伴して難治になっている皮膚疾患もみられます。
鑑別診断、治療的診断が必要になります。

診断


視診、問診によりアトピー特異的症状の合致があるか確認します。
かゆみの有無、犬種(猫種)、発生部位、経過、家族歴 etcをチェックします。
また、皮膚そのものの状況をよく観察します。
二次感染の有無をチェック、皮膚掻爬、抜毛によるダニの確認も必須です。

糖尿病やホルモン病が疑われる場合はスクリーニング的な血液検査や
超音波エコー検査を行ったり、血液中のいくつかのホルモンを測定する場合があります。
腫瘍発生年齢に達してからの皮膚炎では腫瘍随伴性の皮膚症も念頭に入れねばなりません。
猫では、腫瘍関連性の特有の皮膚疾患が稀にみられます。
腫瘍確認のための画像診断が必要になります。

血液検査によって血液中のアレルゲン特異的IgEを調べる方法もあります。
ただ、この方法では食餌性アレルギーは除外できません。
一昔前は動物に於いては若干信頼性にゆらぎのある検査法でしたが、
近年精度が上がってきてるようです。(検査会社によって精度差が大きいようです)
また、リンパ球の反応性を検出し、IgE検査では分からないヘルパーTcell媒介性アレルギー反応の有無を確認する検査も可能です(犬)。
ただし、この検査も食事アレルギーの確定診断ではありません。
アレルギー強度検査(アレルギー性皮膚炎を起こしやすいか否かを確認する検査)も実施可能になっていますが実施頻度は低いです。
アレルギー検査は血液を採取するだけですので手頃ですが、費用的に高いのが欠点です。
食事性アレルギーを確認するには、上記検査もありますが、いずれも確定的では無いため「無アレルゲン食」、「新奇タンパク食」の給餌をして症状が好転するかをみる方法も一般的です(除去食試験)。
この制限食給餌の期間、厳しい管理が必須になります。おやつはもちろん、散歩時の草かじり、サプリメントなどなど・・およそ口に入る全てのものを厳密にコントロールしないと確認に失敗します。
除去食試験では「可哀想なので小指の先だけおやつをあげていた」で全ての努力がパーになるという認識が必要です。
平たく言って、口に入れられるものは「水と制限食、指示されたお薬」のみとなります。この状態を月単位で確認する事になります。
飼い主さんが心を鬼にしてやりきれるか?・・・そういう意味で思っている以上に難しい検査といえます。

「抜いた被毛でアレルギー検査が出来る」旨をうたった物がネット上でありますが、検査の方法論(どのような機序でアレルギーを判別しているか)が明らかで無く、医学的エビデンスも無いため信頼性に欠けると判断し、当院ではオーナー様に持参していただいても診断の参考から除外しております。

治療


二次感染がある場合、それに対する治療は必須です。
また、バックグラウンドに存在する疾病がある場合、それを放置していては治療がうまくいきません。
ノミ、マダニといった外部寄生虫もアトピーの悪化因子ですので予防を心がけます。

かゆみや炎症が強い場合、ステロイドの投与が必要になります。
ステロイドは状況を見ながら減薬、休薬にもちこみます。
抗ヒスタミン剤は効果が薄いとされていますが、効果には個体差があるようです。
ですので、当院では抗ヒスタミン剤の「持ち駒」は複数用意しています。
Aという抗ヒスタミン剤は効かなかったけどBにしたら効いたというような具合です。
抗ヒスタミンとステロイドの組み合わせでステロイド減薬が容易になる事もしばしばあります。

サイクロスポリンというお薬も効果的な場合があります。
この薬剤のおかげでステロイド離脱が可能なことも多いです。
猫では猫アトピー性皮膚炎治療薬としてAtopica液というサイクロスポリン製剤が日本で認可されています。
また、犬ではインターフェロン療法(注射法)も効果があることがあります。
食事アレルギーが疑われる場合、特別食(蛋白分解食やアミノ酸食、新奇蛋白食など)を3ヶ月程度試し、効果の有無を判定します(診断の項参照)。
この他、必須脂肪酸の投与や、シャンプー療法、保湿剤、外用剤などを利用していきます。
猫に関しては、なかなかシャンプー療法は難しいというのが現状です。
また、外用剤も猫では犬ほど簡単には利用しずらい場合があります。
猫ちゃんの性格によって治療法を考慮する必要があります。
内服薬を避けたいばかりに外用剤を猫に適用し、「舐めまくる、掻きまくる」状況が人為的に生まれ、さらなる皮膚状態悪化が進んで転院されてくる事例も良く目にします。
「猫に外用剤」はある程度慎重さが必要だとおもわれます。
外用剤を塗る→舐める→悪化→カラーで抑制→ストレス増強→
カラーを外す→舐めまくる→出血を伴うレベルの皮疹に発展→またカラー・・・
という図式も良く目にします。
状況によってカラーは必須です。ですが「状況」の見極めは必要です。
犬以上に猫はカラーで精神を病む傾向にあります。
こういった理由から猫では外用剤よりも内服治療が優先される場面が多いと思います。

また、当院では漢方や、漢方由来成分を錠剤化した製剤などを使用することもよくあります。いわゆる代替療法というものです。
担癌患者さんに用いる複合漢方薬の一種がアトピー時に見られるヘルパーT細胞バランスの異常(Th1・Th2バランス)を是正する可能性があり、当院でも治験的に採用しております。効果発現はゆっくりですが、明らかに効果が認められる子も出てきております。
治療の理論としてはインターフェロン療法に似ていると考えられます。

猫ちゃんで精神的要因で過度のグルーミングをすることで発生する皮膚炎に対し、精神的安定をもたらすサプリメント等が有効性を示す事例があります。
精神不安定要素のある猫(犬)ではこういったサプリも利用していきます。

2014年に入り、新しいアトピー治療の選択肢(犬)が増えました。
チリダニのグループ2アレルゲンに対するIgE抗体検査が陽性と確認された犬に対してだけの効能ですが、1週間に1回の間隔で、薬剤含量の少ないものから順に5回~6回投与することによりアトピー性皮膚炎の症状を改善させるというものです。
ちなみに、チリダニアレルギーの犬は実際上かなり多いです。
アレルミューンHDMという注射薬を使用するのですが、治療原理は「減感作」です。
アレルギーの原因(抗原)をわざと注射し、体を慣れさせるという治療法です。
減感作治療には過敏反応のリスクがつきものでしたが、今回のアレルミューンHDMはその危険を回避するため、ある修飾成分を分子構造上追加することでその危険性がかなり緩和された製品になっています。
当院でも、この薬剤による治療を行っています。
減感作では即時性は期待できません。長い目で見て長期的な治療効果を見ていく必要があります。
多くの場合年単位での治療をしていく必要があります。素早い効果はまず出ません。アレルミューンによる減感作治療の失敗事例は2,3ヶ月程度であきらめてしまい、減感作を取りやめることによります。
年単位での長期治療計画が必要な薬剤という認識で事を進める必要があります。

2016年夏からはオクラシチニブ(アポキル)という新型アトピー性皮膚炎治療薬も利用可能になりました。
かゆみを鎮める即効性も持っており、アトピー治療の主戦力として当院でも発売当初より採用しています。
発売後月日も経ち、当院での使用実績も相当なものになりました。
(近畿エリア上位実績)
この薬の「クセ」も獣医師としてかなり掴んだと言えます。
アポキルの正しい使い方がなされておらず、本来有効な症例なはずなのにうまく効いていない。その結果転院されてくるというケースが増えています。
「アポキルが効いていた子が最近全然効かなくなった」という趣旨での来院ご相談も増えております。
なぜアポキルが効かないのか?の見直しをして問題点を洗い出し、対応することで殆どのケースは「またアポキルが有効な状態」に差し戻すことができます。

猫のアトピー性皮膚炎におけるアポキル(オクラシチニブ)使用実績も2024年現在、確実に増えております。
アポキルはあくまでも犬用での認可薬剤ですので適用外使用ということになります。
犬での有効性と安全性のバランスの良さから、猫で使えないか?は発売当初より獣医界隈で言われてきたことですが、実際猫に使用しても有用である事が分かっております。ただ、猫に使う場合の注意点や薬剤のクセを理解して使う必要があります。
犬に比較して猫ではアポキル血中濃度維持の時間が短いという性質も明らかとなってきたため、猫の治療に最適かつ安全な薬容量を模索し、ほぼコレという値が確定してきております。
Atopica同様、アポキルも猫のアトピーで有用な薬剤という立ち位置に現在はなっています。
猫へのアポキル投与での「超長期的」な予後についての不明点はまだあるとは思われます。猫に投与され始めてまだ年月が浅いという理由からです。
当院での患者様でアポキル投与が関与したと思われる血液検査データ異常は現在確認されていません。他の症例報告でも明らかな異常は出ていないようです。

精神的要因で過度のグルーミングをしておきる皮膚炎、「舐性皮膚炎」が疑われる猫においても、試験的なアポキル投与で改善しその後離脱できるケースも増えています。
精神的要因についてはその原因を探り、取り除く努力は必須となります。
CBDサプリメント等が有用な場合もあります。
前述の通りアトピー素因が過度のグルーミングの要因になっているケースも多いと思います。

抗体医薬品 ロキベトマブ(サイトポイント・犬用)も発売となり、
新たなアトピー治療薬として採用しています。(犬)
月1回注射するだけという簡便さ。併用薬の制限無し。
作用発現は速く、副作用も少ない。犬アトピーでの有効性6~8割が期待されるという薬です。(後述します)
こちらも2024年現在、使用実績はかなり増えて使用ノウハウの蓄積が進んでおります。

その他の治療として
シャンプー療法
保湿療法
外用療法(MMD療法など)
サプリメント類
食事療法
などを組み合わせてすすめていきます。

アトピー治療も選択の幅が増えましたが、なんでも1つの治療法でうまくいくと言うわけでもなく、
それぞれの治療法、治療薬の利点や欠点を考慮しながら利用していく必要がありそうです。

アトピーという診断がついた場合、治療のゴールは完治ではなくなります。
病気とうまく付き合っていく。病気のコントロールという表現のほうが正しいでしょう。

ステロイドという薬剤に過剰なまでに嫌悪感を抱く飼い主さんが少なからずおられます。
確かに使い方を誤ればコワイ薬です。しかし、うまく使えばするどい切れ味を持った薬でもあります。
ステロイドを使うことで患者さんが得られる利益が使ったことでの不利益より圧倒的に勝ると思われる場合、やはり使うべき時は使い、うまく使用をやめていくことが肝要だと思います。
この「諸刃の剣」を使いこなしていくのが獣医の力量でもあるのかもしれません。

実際の症例




アトピー性皮膚炎のわんちゃんです。
アトピー歴はかなりの年月で、飼い主さんは半ばあきらめムードでの初来院でした。
「とにかくかゆいのだけ何とかしてくれればそれでいいです」と仰られていました。


「じゃあかゆみだけ止めましょう」では芸がなさすぎですので、じっくり診てみます。
ざっとみたところ皮膚は真っ赤っか、かゆみは著しく、苔癬化も所々で発生してきています。
飼い主さんは貰っていた薬(ステロイド)があんまり効かないとおっしゃられていました。
調べてみますと、この子の場合はアトピーに二次感染が加わり、
さらにDemodex(ニキビダニ)が発生していました。
脇はかなりの脂漏性皮膚炎を併発しています。
こういう複合病態も決して珍しくはありません。

治療の戦略としては

・ダニ(Demodex)に対する治療
・二次感染の制圧
・シャンプー療法
・アトピー本来の治療

これらを同時にすすめる・・・と致しました。



治療開始して数週間・・・

完全とはいえないまでも、かなり赤みも減り、かゆみはほぼ無くなりました。
色素沈着も明らかに薄くなったようです。
この後も、「病気のコントロール」が必要です。

サイクロスポリンのみで寛解維持できているアトピー症例


病院を転々とされてきた患者さんです。





わんちゃんは日々、重度の痒みに耐えている状況でした
他院にてステロイド、低分子食事療法など諸々の治療をしてきたが、いまいち良くならず
最近ステロイドが効かなくなってきたとのことでした。
基本に忠実に診断を遂行し、アトピー+二次感染と診断。治療を開始しました。
治療初期はステロイド、抗生物質、シャンプー療法としました。



治療一週間目


痒みの激減、発赤腫脹の消失、二次感染もかなり制圧されました。
この後オーナー様と相談の上、サイクロスポリン療法行うこととしました。
サイクロスポリンはステロイドとは異なり、それ自体が痒みをとってくれることはありません。リンパ球の司令塔であるT細胞が誤った指揮・命令を出すことがアトピーの要因の一つですので、この狂った司令塔に少し黙っていてもらう・・・これがサイクロスポリンの薬効なのです。
サイクロスポリンは効果が出るまでに時間を要するため、投与開始後は2週程度ステロイドと併用します。この間にじわじわステロイドを切っていきます。
最終目標は、ステロイドを完全にやめることです。
ステロイドから離脱出来ればステロイドの副作用から逃れられますし、完全に離脱できない場合でもステロイドの薬用量を減らしたり、休薬できたりする可能性が高いのです。
そういう意味で、アトピー治療薬として非常に有用であると考えています。


サイクロスポリンのみの投与での現在



サイクロスポリンのみを投与して、現在は痒みや炎症から完全に離脱出来ました。
なんとなく表情も明るくなった印象すら感じます。
写真撮影時はステロイド一切使っていません。
食事も低分子タンパク食もやめて、ノマールな食事を摂ってもらっています。
シャンプーは皮膚の健康を保つために適宜使用してもらいます。
今後も定期的な検診は必要になります。


ウエスティー難治性アトピー症例


初診時
全身性の強い痒み、特に内股、後肢がひどく苔癬化も強く進んでいます。
慢性所見である色素沈着も見られます。


初診から45日経過
ずいぶん良くなりました。苔癬化も解消され、色素沈着も減っています。
ウエスティーのアトピーは基本的に難治性であることが多いです。
この子も検査・診断・治療は単純ではありませんでした。
皮膚は寛解しましたが、この状態をいかにうまく保っていくかが今後の課題になります。]

アトピー+マラセチア性皮膚炎


高齢のシーズー犬です。
皮膚炎歴は長く、アトピーということで度重なるステロイド投与などさまざまな治療歴があった方です。


初診時、被毛は薄く、皮膚は脂漏性の痂皮が多数付着。 色素沈着が見られました。
痒みは著しい状況です。診察台にパラパラとフケが落ちていく状況でした。


皮膚検査を行うと、多数のマラセチア(酵母様のカビ)と球菌が見られました。
画像上の紫色のつぶつぶがマラセチアです。

マラセチアを排除する内科治療、シャンプー療法、二次感染対策治療を開始
アトピーの治療も平行して行いました。




治療を続けていき、かなり改善できました。
被毛が増え、フケは減り、痒みも減少しました。
現在サイクロスポリンをメインで治療を継続中です。



残念ながらアトピーは完治するものではありません。
病気とうまく付き合い、コントロールしていくものだと考えます。

サイクロスポリンですが、ほとんどの症例で明らかな副作用なく利用できます。
しかし、一部の症例では、投与初期1-2週間目で軟便・下痢・嘔吐が発生するようです。
これは、サイクロスポリンという薬剤そのものの副作用ではなく、サイクロスポリンを溶解している油性基剤(マイクロエマルジョン)によるものと言われています。
この油性基剤に腸が慣れるまでの期間、整腸剤や消化器科内服を併用すると、その後の副作用は避けられる事が多いです。
サイクロスポリンそのものの細胞毒性は犬猫においては報告されていません。


ただ、ごく一部の患者さんでどうしてもくすり(具体的には基材であるマイクロエマルジョン)が体質に合わない場合があります。
サイクロスポリンカプセルを液剤に変更したり、カプセルを凍結させてから投与したりという裏技を使いながら切り抜けられる場合もありますが、ダメな場合は残念ながらサイクロスポリンを使えないと言うことになります。この場合はまた別の治療法を模索していきます。

2016年夏にオクラシチニブ(アポキル)という薬剤も国内認可され、ステロイドにかわるアトピー治療薬としてサイクロスポリン同様、重要な戦力として当院でも採用しています。
この薬剤は、即効性があるという点で非常に優れています。
オクラシチニブ(アポキル)の使用実績も現在当院でもかなりの症例数を数え、その薬剤としてのクセも分かってきました。いわゆる薬の使用書に書かれていない、経験則的なノウハウの蓄積です。
猫に対するアポキルの投与も症例数が増えてきております。

サイクロスポリン、オクラシチニブどちらもアトピーの治療薬ですが、それぞれに薬剤としてのクセがあり、
また、効果のある患者さんにも違いがあります。
オクラシチニブではダメだったが、サイクロスポリンならすごくうまくいくとか、またその逆だったりという症例を経験しています。 どうも単純ではないようです。

オクラシチニブ(アポキル)無効症例として転院されて来た方もそれなりにおられますが、二次感染の見落とし是正や、くすりの正しい使い方をしていただく事で有効であったことも多く経験しています。
即効性のある薬だからといって、ちょっと使ってみてすぐ効かなかったら、もうこの薬はダメと安易に判断もできないと思われます。

また、最近になり抗体医薬品 ロキベトマブ(サイトポイント犬用)も発売となり、
新たなアトピー治療薬として期待しています。
月1回注射するだけという簡便さ。併用薬の制限無し。
作用発現は速く、副作用も少ない。犬アトピーでの有効性6~8割が期待されるという薬です。
難点を言えば、比較的高価な薬剤であることでしょう。(競合他社製品が無い)
まだ販売されたばかりで、国内実績が少ない。
長期投与の実績もこれから。当院でのノウハウ蓄積もこれからです。
2024年現在、当院での使用実績も相当数となり、この薬剤のクセも把握してきています。
痒みに関連する多岐にわたる部分のうち、IL-31のみ抑制という作用部位の「狭さ」。狭いが故に効く症例が選択される可能性・・・
ただ、逆にこの「狭さ」が武器でもあるのでココは難点とは言えないでしょう。

アトピーやアレルギーではMMD療法という、外用剤とシャンプー・保湿剤を利用した治療も可能です(犬)。
手間と時間を要する部分は否めませんが、内服に頼る頻度を下げたり、中止出来る場合もあります。
当院では独自のMMDの変法(MMDを簡易的に適用する方法)も利用しながら治療を推進しております。

「アトピーを完治させます」とかいう触れ込みのサプリやフードや治療法などをネット上で散見しますが、個人的には?????です。
なにやら食事だけであらゆるアトピーが治るかのような誤解を与えるフードも多数売られてます。
医学的根拠に疑問符のある検査方法も散見されます(抜いた毛だけでアトピー診断など)。
事はそう単純では無いし、簡単でもありません。

そういったものにハマって、悪化してひどくなって来院される方もおられます。
医学的根拠のない治療法は注意が必要でしょう。


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