北千里動物病院

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更新日 2017-04-08 | 作成日 2017-04-08

会陰ヘルニア(えいんヘルニア)



ここでは犬の会陰ヘルニア(えいんヘルニア)をご紹介したいと思います。
会陰とは肛門と泌尿生殖器の出口周辺の部分を言いますが、この会陰部の筋肉が萎縮を起こし、隙間ができ、そこから膀胱、腸管、大網、腹腔内脂肪などがとびだしてヘルニアが形成される事があります。これを会陰ヘルニアと言います。

劣性遺伝やホルモンの関与が原因に挙げられていますがいまだに不明な部分は多い疾患です。発症は中年以降のオスが圧倒的に多く男性ホルモン(アンドロゲン)が関与している点は確かなようです。

症状としてはきばってもきばっても便が少量しか出ず、排便時に痛がる。肛門の片側、あるいは両側が腫れている。膀胱が脱出している場合には尿が出にくい(出ない)といったものになります。

診断

症状、直腸診、レントゲン検査(時に造影検査)、超音波エコー検査などで診断をつけます。
外科処置の内容についても検査結果から検討します。

治療

基本的に外科的治療を行います。
会陰ヘルニアの整復法には様々な方法が開発されています
様々な手術様式が開発されているという事を言い換えれば、それぞれの術式に一長一短があり、コレという決定的なスタンダードな手術様式が決まっていない事を意味します。
また、統計学的には再発率の高い手術に分類されます。
大きく分けて術式は2つ。
人工物利用術と生体膜利用術です。
歪んで下垂した腸を引っ張り上げる手術(結腸牽引固定)は多くの例で併用しなければなりません。
オスの場合、去勢手術は必須になります(前述の性ホルモンによる病勢悪化を防ぐ意味で)。


人工物インプラントによるヘルニア整復

メリット
・手術が短時間で完了できる可能性
・生理学的位置関係を保ちながら整復が可能
・素材にもよるが、強靭である
・生体膜利用による術式を選択できないような症例(骨盤隔膜筋菲薄化等にも応用可能)

デメリット
・シリコンプラグなどで生体内で硬化収縮することで整復部位から脱落 ※
・生体内での異物反応、炎症反応
・感染の確率が増大する
・手術を受けた本人の異物感、違和感の継続
・人工物インプラントが高額


当院で人工物インプラントを用いる場合は、ポリプロピレンメッシュ(プロリンメッシュ)素材を整復する個体ごとに整形加工して適用するのがメインです。 シリコンは使いません。
ヒト(成人)の鼠径ヘルニアではバトミントンの羽状に加工されたポリプロプレンメッシュによるヘルニア整復がメインになってきております。
人工物としてのポリプロピレンメッシュは人医学の方では確立された手技となっているので、おそらく動物での利用でも最も問題が起きにくい人工素材と思われます。


生体膜、筋転移術によるヘルニア整復

メリット
・生体材料を使うので、異物反応は理論上起きない(縫合糸は別として)
・術後感染の可能性は人工物より少ない
・本人の異物感、違和感が少ない
・複数の術式を複合できる

デメリット
・一般に、術式が煩雑、手術が長時間化する傾向
・利用できる生体膜が脆弱だったり、萎縮している場合、縫合部位が破綻しやすい
・術後も筋萎縮が進行した場合、徐々に悪化する可能性

どのような術式を用いるのかは、術前の会陰ヘルニアの状況評価、動物の品種、年齢、基礎疾患、
手術までの経過などなど、さまざまな要因を考慮しながら決定します。
実際、手術を開始して観血的に状況確認したうえで臨機応変に対応します。
手術前の段階で、プランA、プランB、プランC・・・・と対応できる手術準備が必要になります。

また、会陰ヘルニア手術は精巣摘出術を併用するのが常です(男性ホルモンが悪化に関与するため)。
大半の症例で、結腸牽引固定術を併用します。

片側性の会陰ヘルニアを整復後、反対側の会陰部にヘルニアが生じてくることもあります。ヘルニア部位が手術によってがっちり閉じられることにより、腹圧が反対側の会陰にかかってくることは容易に想像できます。
既に反対側の会陰部筋肉群が萎縮を起こしてきていた場合、そこが破綻すればドミノ的にヘルニアとなるわけです。
こういった場合はその時点で破綻部位のヘルニア手術が必要となります。
既に発症時から両側性ヘルニアであれば、左右同時のOPEを行うことも多いです。
当然麻酔時間、手術時間の延長が必要ですので、動物の年齢や体力、基礎疾患等を十分考慮した上で手術を選択していきます。



実際の症例









右側の会陰に重度のヘルニアが発生しています。
ヘルニアによる圧迫で肛門が左に寄ってしまっています。





レントゲン検査

肛門位置が尾側に大きく変位し、ヘルニア嚢内に糞塊が認められます。肛門の変位の程度が重度なため複数の術式を併用する事にしました。
(結腸固定術、内閉鎖筋転移術、浅殿筋転移術を併用)








手術前に剃毛した様子
ヘルニア部分が大きくふくらんでいます。


会陰ヘルニア術中写真(生体膜利用)

グロテスクな写真が載っていますので、見たくない方は読み飛ばしてください。




結腸固定術
ヘルニア孔に向かって落ち込んでいる結直腸を腹腔内に引っ張り上げて腹壁に固定する手術です。
基本的に肛門の変位(特に尾側への)が強い症例で行います。
変位が軽ければ行わない事もありますが、施術するケースが多いです。
固定終了後、型のとおり閉腹します。







会陰切開
大きなヘルニア孔が確認されます。
結腸固定術を先に終えているので、既にある程度手術しやすい環境となっています。






内閉鎖筋を剥離、反転し下方1/3の支持に用いています。
仕上がりはちょうどベンツマークのような縫合になります。
右下方に見える白っぽい物は内閉鎖筋を剥離された骨盤です。





浅殿筋フラップ作成
浅殿筋を剥離、反転しているところです。
この症例では筋の菲薄化がある程度進行していましたので、内閉鎖筋フラップ法のみでは固定が甘いと判断しました。





浅殿筋フラップを縫合している所です。
これでかなりしっかりした隔壁が形成されました。
あとは型どおり皮下組織、皮膚を縫合します。
最後に去勢手術を行って終了です。






術後
肛門位置が元に戻っています。
ヘルニアによる腫れも解消され、排便も正常に出来るようになりました



重度両側性会陰ヘルニア(生体膜利用)


両側性に発生した重度会陰ヘルニア症例です。



肛門が激しく後方(尾側)に変位し、側方に大きなヘルニアができていました。
当然、排便は困難な状態でワンちゃんは食欲不振から痩せていました。



手術直後の写真
両側同時にOPEしました。
結腸牽引固定、筋転移術、精巣鞘膜有茎フラップなど複数の術式を駆使し、なんとかヘルニアを整復しました。


抜糸後の写真です。
自分で排便できるようになりました。
筋の菲薄化がある症例ですので、今後も経過観察が必要です。


右側会陰ヘルニア症例(人工物利用)
ポリプロピレンメッシュによる整復


筋肉菲薄化が重度で、生体膜利用による整復困難な症例です。
開腹による結腸牽引固定術、去勢手術を併用しています。(写真は割愛)



右ヘルニア部位にポリプロピレンメッシュをあてがい、形状を決定している所です。
この人工素材はシート状ですので、円錐形に加工して利用します。
円錐の形状は当然各個体で変える必要があります。
ぴったり違和感なくフィットするよう調整します。
(メッシュの余剰部分は後で切り取ります)


いったん取り出し、メッシュの形状を固める作業をします。


メッシュ余剰部分を切除し、違和感なく埋没できるレベルで固定しました。
生体とインプラント固定部位は非常に重要です。
適当に縫合しても不安定を生じ脱落しやすくなります。


縫合終了


抜糸後
術創の腫れもなく問題ありませんでした。
自力排便も問題なくできるレベルに回復しました。


直腸憩室縫縮術
会陰ヘルニア(左) PPメッシュ法 併用事例

他院にかかられ、長年にわたり指での便の掻き出しを繰り返されてきた患者さんです。
臀筋群はひ薄化し直腸に大きな憩室ができていました。
片側停留睾丸もあり、未虚勢でした。
わんちゃんはおしり付近を触られることに極度の恐怖感があり、非常につらい日々を過ごしてきたのであろうと思われました。
体重減少・全体的な筋肉量の減少も認められました。
当院来院時、左側会陰部に野球の軟球のような硬さのボール状糞塊が触知されました。

去勢、停留睾丸摘出をまず行いました。(写真割愛)
その後会陰切開に移りました。

切開してみると脂肪の絞扼による液体が貯留
腹腔脂肪、大網組織が出ていました



直腸憩室の確認(直腸内腔から圧をかけて確認)
ボコッと膨らんでいる部分が直腸憩室です。
ボール状に憩室ができています。
この部分は、直腸の筋線維が薄くなり部分断裂したりして拡張してできた空間です。



直腸憩室縫縮術の開始
拡張して伸びた部分を縫縮していきます。
直腸内腔に貫通させぬ様、十分な配慮が必要です。
まず、縫縮領域全域に糸を通すことから始めます。
いわゆる「波縫い」を拡張領域に行っていきます。
締め付けは最後に行います。



かなり糸が設置できた時の写真です。
何本もの縫縮糸が確認できます。



縫縮用の糸を頭側側から締めていきます。
術創外から指を直腸に入れ(助手)、締め付けすぎていないかを確認しつつ
ゆっくりと着実に締め、結んでゆきます。
写真は完了時のものです。
憩室部がブクッと膨らまなくなり、かつ直腸は直線的に改善されました。



えいんヘルニア部位の整復
PPメッシュをいつもの要領で固定していきます。
ここも、着実に固定できるポイントを押さえて縫合していく必要があります。
適当に縫い付けるとインプラントの不安定、脱落を招きます。


手術直後
インプラント設置後は感染、脱落、過敏反応性の炎症、液体貯留など、
注意すべき点を見守りながら経過を見ていきます。
食事にも気をつけてもらいます。


抜糸(抜ステープラー)前の状況
手術部位は良好!、写真撮影後抜糸しました。
わんちゃんは自力排便が可能になり、
おしりを触られる恐怖感も随分減りました。
食欲もあり、体重も増えていました。

ヒトにおける鼠径ヘルニアPPメッシュ固定法でも
術後半年レベルでの違和感、異物感はおきるようです。
動物でも同様に手術直後の「痛い」という状況が終わったあと、一定期間の違和感は
存続するものと推察されます。
メッシュ状インプラントのメッシュ部位を細胞が埋め尽くし、より強固に固定され、
インプラント空間を組織が埋め尽くす状況になれば、違和感は軽減されるものと思います。
おそらくは月単位の時間が必要かと思われます。
わんちゃんは喋ってくれないので、このあたりの違和感等はなかなかハッキリしません。
ですが、術後8週以上経過した例の多くで臀部を気にする仕草などはかなり無くなっているように感じます。




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