椎間板ヘルニア手術
北千里動物病院での椎間板ヘルニア手術の実例をお見せします。
術中写真が多いので、見たくない方は読みとばしてください。
頚椎ヘルニアに関しては頚椎ヘルニアのページをご覧ください。
当院での胸腰椎椎間板ヘルニア手術はヘミラミネクトミー(片側椎弓切除術)を基本としています。
海外の外科専門医の約9割がこの術式を選択しています。
後述の小範囲椎弓切除術も近年のトレンドではありますが、世界的な「標準」は2024年現時点においてもヘミラミネクトミーです。
どの術式でも特別な理由がない限り、最小の切開創で行います。(傷が小さい)
ヘミラミネクトミーでは手術のやり易さから目的部位に隣りあう関節まで筋・腱剥離が行われる事が一般的でしたが、手術部位前後の椎間でのヘルニア再発率が上がるという報告もあり、当院では最小切開法で行なっています。
傷が小さいので動物にやさしいです。
状況によって術前にPLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)を予防的に適用します。
PLDDについては椎間板ヘルニアのページをご覧下さい。
当院での椎間板ヘルニア手術は現在全例において外科顕微鏡を用いた顕微鏡外科手術です。
設備の大きさ・費用などの問題で、拡大鏡のみでOPEされる事が動物領域ではいまだ主流ですが、
直径5ミリ程度の脊髄神経周囲を確認しながら作業せねばならない小動物のヘルニアでは
その緻密さ、正確性において拡大鏡では役不足と考えております。
特に頚椎の外科では必須と考えております。
手術の流れはこんな感じです。(一般的なヘミラミネクトミー手術の場合)
1. 赤丸で示した領域の骨を切除・切削し、ヘルニア部位に到達
2. 脊髄神経に損傷を与えないようにしながらヘルニア物質を除去
3. 洗浄し、脂肪組織で保護、縫合
※ ミニヘミラミネクトミー(小範囲片側椎弓切除術)の場合では赤丸の領域の下側(腹側)に穴を開け、関節突起(赤丸)を切除しません。
関節温存のため、術後の椎体不安定が生じにくいという利点があります。
ただし、飛び出した椎間板物質が腹側に限局的で側方や上方拡散していない事が適用条件になります。
実際の症例
ミニチュアダックス
突然の歩行不能(後肢)、排尿障害
診断:椎間板ヘルニアグレード4
手術準備
外科顕微鏡、ビデオシステムのセットアップ
手術部位を確認し、切皮しています。
筋剥離しています
剥離終了
白くポコッと見えるのが関節突起
隣り合う関節突起や腱には一切手を加えません。
関節突起を切離します
高速ラウンドバーで切削
傷口が小さいので緻密な作業です。
神経が加熱損傷しないように流水冷却しながら削っていきます。
神経保護のための細かい配慮は必須です。
最終切削はより細かい刃先のダイヤモンドバーを用います。
先刃の薄いケリソンロンジュール等で
最終段階の切除(硬膜外板等)を行います。
椎間板物質を確認、除去しています。
神経を圧迫している主原因を取り除く、重要な局面です。
神経損傷を起こさせないように配慮しながら確実に操作していきます。
椎間物質除去に使用する鉗子や探子は、特別作成のものも含め多数準備しています。
状況に合わせて使用していきます。
写真は脳外科用チタニウム製探子で探りながら椎間物質を除去しています。
ダックスクラスだと脊髄神経の太さはおよそ5ミリ程度です。
緻密な作業の連続です。
外科顕微鏡の導入により、単純な拡大鏡では確認できない領域も鮮明になり、手術精度が上がりました。
副突起(関節突起の下方の小さな突起)の切削切除の必要性は外科顕微鏡によっても脊髄腹側が確認しづらい場合は必須ですが、しっかり見えて椎間物質が除去できるならば必ずしも必要ではないと考えています。そのあたりは術中の状況次第です。
椎間物質の除去作業中写真
作業の一部を切り出した静止画です。(外科顕微鏡ビデオシステムでの録画)
椎間板物質が見えています。
30度チタン製神経プローブで探ります
椎間板物質を小型の匙型鑷子にて把持、除去しています
温生食にて洗浄
洗浄中も神経に水圧がかからない配慮を行います
椎間物質除去後
脊髄神経(白色)がしっかり視認されました。
脊柱管床方向からの圧迫がなくなり、脊髄神経腹側面が奇麗な直線になっています
椎間物質の除去終了
取り残しがないかよく確認します
圧迫が解除され、神経がストレートな位置に戻りました。
温めた灌流液で十分洗浄し、新鮮な脂肪片を神経に被覆します。
この脂肪が、神経を保護してくれます。
脂肪片の移植については不要だという意見もあります。
過去に脂肪織炎を起こした経歴のある動物では適用しません。
剥離した筋組織を縫合した後です
このあと、皮下縫合、皮内縫合を行います。
ダックス君たちは糸に対する組織反応が異常な子もいるので、
当院では吸収糸の中でも特に問題発生率の低いものを選択しています。
すべての縫合が終了、外科用シールを適用しました。
傷も最小限です。
この子は経過も良く、入院5日で退院しました。
再診時には走れるレベルまで回復しました。
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